名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和61年(ワ)285号 判決 1988年11月17日
原告
大林晃
右法定代理人後見人
井上洋子
右訴訟代理人弁護士
青木栄一
被告
豊田久子
右訴訟代理人弁護士
浦野信一郎
被告
金本栄善
右訴訟代理人弁護士
岡田正哉
被告
小川勝彦
主文
一 被告らは原告に対し、別紙物件目録記載の不動産につき、別紙登記目録記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁(被告豊田、同金本)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五一年一二月一日、別紙物件目録一、二記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を前の所有者原告の父藤城敏明(以下「藤城」という。)から贈与を受け、所有権を取得した。
2 本件不動産には、被告らを登記権利者とする別紙登記目録記載の登記がなされている。
3 原告は昭和三三年七月七日生であるが、生来重度の知恵遅れによる意思無能力者であって、昭和六一年九月五日名古屋家庭裁判所豊橋支部より禁治産宣告を受け、大林つる(以下「つる」という。)が後見人に選任されたが、昭和六二年一二月二七日つるが死亡したため、昭和六三年一〇月一八日井上洋子が後見人に選任された。
4 よって、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する被告豊田久子(以下「被告豊田」という。)の認否及び抗弁並びに抗弁に対する原告の認否
1 認否
(一) 請求原因1のうち、原告の父藤城が本件不動産の所有者であったことは認め、その余の事実は否認する。
(二) 同2は認める。
(三) 同3のうち、原告が生来重度の知恵遅れによる意思無能力者であることは否認し、その余の事実は認める。
2 抗弁
(一)(1) 仮に原告が意思無能力者であったとすれば、藤城から原告への本件不動産の贈与は無効である。
(2) 仮にそうでないとしても、藤城から原告に対する贈与契約は、心裡留保または虚偽表示として無効である。
藤城が本件不動産を原告名義にしたのは、当時原告の父である藤城が商売に失敗していたので、身障者である原告の将来を心配した祖母のつるから、原告名義にするように強く言われて、やむなく形式上そのようにしたものである。しかも、本件不動産には、当時既に、昭和四五年九月三〇日受付第三一八四八号をもって大林辰治のために所有権移転請求権仮登記、昭和五〇年一〇月一四日受付第二九四七八号をもって逸見和司のために停止条件付所有権移転仮登記、昭和四五年九月二四日受付第三一一四二号をもって豊橋市南部農業協同組合のために根抵当権設定登記及び昭和五〇年一〇月一四日受付第二九四七七号をもって逸見和司のため根抵当権設定登記がなされており、いわば不動産としては傷物であり、通常では真実の贈与の対象となるような代物ではない。
ところで、当時原告は未成年者であったから、本件不動産の贈与に関する意思表示は、贈与者である藤城から、受贈者である原告の親権者しての藤城に対してなされたことになり、右贈与の意思表示につき、それが表意者の真意でないことを相手方が知っていたということになる。
仮にそうでないとしても、藤城が倒産した際に財産保全のため、便宜原告の名義にしたものであって、相手方と通じてなした虚偽表示に当たる。
以上いずれにしても、右贈与の意思表示は心裡留保または虚偽表示として無効である。
そうとすれば、本件不動産の所有権は登記簿上の名義にかかわらず、藤城にあるから、本件不動産の所有権が原告にあることを前提とする本訴請求は理由がない。
(二) 仮に原告が所有権を取得したとすれば次のとおり主張する。
(1) 被告豊田は、昭和六〇年五月八日原告と称する者及び藤城との間において、本件不動産につき、別紙登記目録一1、二1記載の内容の根抵当権(以下「第1根抵当権」という。)設定契約を締結し、その旨の根抵当権設定登記を経由した。
(2) 右登記手続終了後、原告と称していた男は、実は原告の実弟の亮二であり、原告は知能程度が低く、祖母であるつるが事実上の後見人をしていることが判明したので、被告豊田は、改めて右つるに対し、第1根抵当権設定契約の追認をしてもらった。その後つるは、正式に後見人に就職したから、それにより右根抵当権設定契約は原告に対し効力を生じた。
(3) 仮に右主張が認められないとすれば、次のとおり主張する。
本件不動産が原告の名義になったのは、前記のような経緯からであり、原告は本件不動産を取得するについて何ら経済的負担をしておらず、かえって、原告名義になってからも、藤城は自己の責任において本件不動産を担保とした債務を返済して、前記の各登記を抹消しているのであり、もともと原告は、担保付のまま贈与を受けたのであるから、父親である藤城に融資を受ける必要が生じたときは、本件不動産を担保に提供してこれに協力するのは当然のことである。原告に正常な判断能力があれば、必ずやそうしたに違いない。藤城は、もともと本件不動産は自分の物であるとの安易な気持から、軽卒にも原告の弟の亮二を原告の身代りとして、被告豊田を騙して、第1根抵当権設定をして融資を受けたものである。その後右事実が判明したので、被告豊田は、当時原告の事実上の後見人として原告の世話をしていたつるに第1根抵当権設定契約の追認をしてもらったが、その後つるが正式に後見人に就職したのである。
以上のとおりであって、形式的には第1根抵当権設定契約及びこれに基づく登記手続には瑕疵があったとしても、前記のような事実関係のもとに事実上の後見人であるつるが、これを追認し、その後正式に後見人になったという事情に照らせば、右瑕疵を主張して第1根抵当権設定登記の抹消を求めるのは、信義則に反し、許されないものである。
3 抗弁に対する認否
争う。
(1) 藤城から原告への本件不動産贈与が行なわれた、昭和五一年一二月一日当時、原告は一八歳の未成年者であり、藤城が親権者であった。
したがって、父子間の贈与契約は有効である。
(2) 本件登記申請行為は、他人が原告になりすましてなしたものであり、無効の登記である。無効の登記申請行為が追認により有効な行為になることはありえない。
三 請求原因に対する被告金本栄善(以下「被告金本」という。)の認否及び抗弁並びに抗弁に対する原告の認否
1 認否
(一) 請求原因1のうち、原告の父藤城が本件不動産の所有者であったことは認め、その余の事実は否認する。
(二) 同2は認める。
(三) 同3のうち、原告が生来重度の知恵遅れによる意思無能力者であることは否認し、その余の事実は認める。
2 抗弁
(一)(1) 仮に原告が当時意思無能力者であったとすれば、原告には贈与契約を締結する能力がないから、藤城と原告との間の昭和五一年一二月一日付贈与契約は無効である。
(2) 仮にそうでないとしても、藤城から原告へ本件不動産の所有権が移転した当時の藤城の財産状況及び原告の受益の意思能力の有無などの事実からみると、原告への贈与は、藤城の財産保全のための虚偽表示であり無効である。
以上(1)、(2)のとおりであって本件不動産の所有権が原告にあることを前提とする本訴請求は理由がない。
(二) 仮に(一)の主張が理由がないとすれば、次のとおり主張する。
(1)(a) 被告金本は、昭和六〇年五月三〇日、本件不動産につき同被告を根抵当権者とする別紙登記目録一2、二2記載の内容の根抵当権(以下「第2根抵当権」という。)設定契約を締結し、その旨の根抵当権設定登記を経由した。
(b) 昭和六〇年五月末日頃、被告金本は、藤城に対し、貸付金一〇五〇万円を有しており、藤城所有のアパート(学生寮として使用)と喫茶店(店名マイルーム)の各土地建物に根抵当権(以下「旧担保」という。)の設定を受けていたところ、その頃、藤城は、同被告に対して次のような申入れをした。
イ 藤城は、相被告である豊田からも金を借りており、被告金本が旧担保を解除すれば、同被告の藤城に対する貸金債権を被告豊田が代位弁済すると同被告が言っている。
ロ 被告豊田が現実に代位弁済するまで、本件不動産に第2根抵当権を設定する。
ハ 本件不動産は、原告名義になっているが、もともと藤城自身の所有物件であったところ、藤城の母つるの願いで原告の名義にしたもので、現在でも本件不動産の実質的処分権限は藤城にある。
ニ 原告は、重度の小児マヒで、第2根抵当権設定契約及びその登記手続に立会うことが出来ないが、原告の後見人がつるであり、同人も第2根抵当権設定契約及びその登記手続をすることに同意しており、右契約及び登記手続に同人が立会う。
(c) そこで被告金本は、右藤城の申出を了承し、貸付金の追加担保として、昭和六〇年五月三〇日に本件不動産につき第2根抵当権設定契約をし、同月三一日付でその旨の登記を経由した。同月三〇日の設定契約及びこれに関する登記委任手続は、愛知県豊橋市の山田正司法書士事務所で行なわれたが、原告側からは、藤城とその子(氏名不詳だがトヨタ自動車に勤務していると称していた者)と原告の後見人であるというつるが立会い、つるは自分が後見人である趣旨の発言をし、原告名義の本件不動産に第2根抵当権を設定することに同意する言動をした。なお、被告金本側は、相被告の小川が被告金本の代理人として出席し、右契約をした。この折、被告小川は、前記山田司法書士から、念のため、原告の後見人であるというつるから、追認書を貰っておくよう忠告を受け、その頃追認書(丙第二号証)をつるから貰った。
(2) 以上の次第であるから、抗弁として次のとおり主張する。
(a) 仮に原告に本件不動産の所有権があるとしても、(イ)現実に藤城が中心となり、つるの協力のもとに本件不動産に本件担保権などを設定していること、(ロ)原告は、本件不動産の贈与を受けたという昭和五一年一二月当時も、物事の判断能力を全く欠いていたこと、等の事実から見て、藤城から原告への所有権の移転には、本件不動産の処分権限を藤城に留保するとの合意が前提に存したとみるべきである。
したがって、藤城との間において、同人の債務につき同人の処分権限のある本件不動産に第2根抵当権を設定し、その旨の登記を経たことになり有効である。
(b) 仮にそうでないとしても、原告は、第2根抵当権設定契約成立当時実質的に意思無能力者で後見を必要としていた者であり、つるが事実上の後見人になっていた。第2根抵当権設定契約は、前記の如くつるの承認の下に行なわれたものであり同契約は有効に成立している。
(c) 仮に右主張が認められないとしても、つるは、昭和六一年九月五日に名古屋家庭裁判所豊橋支部で原告の後見人に選任されており(同庁昭和六一年(家)第六五六号)、被告金本との間における契約締結上の瑕疵は右選任により補完されたというべきである。
(d) 仮に右主張が認められないとしても、第2根抵当権設定契約成立当時、つるは、重度の小児マヒである原告の日常生活における代理権を有し、原告の後見人を自称していたものである(このことは、つるが原告の代理人と称していたことと同視しうる)。そして当日の藤城による前記(二)(1)(b)のハ、ニ、の如き説明及びこれを肯認するつるの言動からみて、被告金本がつるにおいて右設定契約をする権限を有すると信ずべき正当の理由があったから、民法一一〇条の表見代理が成立する。
3 抗弁に対する認否
(一)は争う。
(二)(1)(a)のうち、第2根抵当権設定契約の成立は否認する、(b)は不知。(c)のうち、つるが原告の後見人であること、つるが立会ったこと、自分が後見人である趣旨の発言をし、原告名義の本件不動産に第2根抵当権を設定することに同意する言動をしたことは否認する、その余の事実は、昭和六〇年五月三〇日付登記手続がなされていることを除き不知。
(2)(a)、(b)は争う。
(c)のうち、被告金本との間における契約締結上の瑕疵は、つるの後見人選任により補完されたというべきであるとの主張は争う。
(d)は、争う。
意思無能力者である原告からつるに対し、いかなる代理権授与行為もなされておらず、そもそも基本代理権がないから、民法一一〇条の表見代理が成立する余地がない。また原告が意思無能力者であることが分かっていれば、つるが後見人であるか否かは、戸籍簿等で容易に確認できるし、確認すべきであるのでこれを怠った者には過失がある。
四 被告豊田及び同金本の追認の抗弁に対する原告の再抗弁
仮につるが後見人に就職したため追認を拒絶できないとしても、前記後見人就職前の無権代理行為は後見監督人の同意がないかぎり完全には有効でない。即ち、後見監督人は後見人とは別個独自の判断で、後見人のなした被後見人のための行為について同意権を有する。本件では、たといつるが昭和六〇年五月頃なした無権代理行為(以下「第一追認」という。)について、同人が後見人に選任されたため、同人の立場からはもはや信義則上、追認を拒絶できないとしても、後見監督人が同意しない限り、その第一追認は取消しうるものである。本件において、後見監督人伴勉は被告らに対し、追認に同意する意思のないことをすでに明かにしている。したがって、伴の同意がない限り、つるは有効な追認ができないのであるから、第一追認は取消しできると解すべきである。
よってつるは、昭和六二年五月二八日の本件口頭弁論期日において、昭和六〇年五月頃同人がなした第一追認を取消す旨の意思表示をした。
五 再抗弁に対する被告豊田及び同金本の認否
争う。
第三 証拠<省略>
理由
第一被告豊田及び同金本関係
一(1) 原告の父藤城が、本件不動産の所有者であったこと、本件不動産には、被告ら三名を登記権利者とする別紙登記目録記載の登記がなされていること、原告は昭和六一年九月五日名古屋家庭裁判所豊橋支部より禁治産宣告を受け、つるが後見人に選任されたが、昭和六二年一二月二七日つるが死亡したため、昭和六三年一〇月一八日井上洋子が後見人に選任されたことは、原告と被告豊田及び同金本(以下被告豊田及び同金本を併せて「被告豊田ら」という。)の間では争いがない。
原告が生来重度の知恵遅れによる意思無能力者であったことは、<証拠>により認められる。
(2) <証拠>によれば、原告の父藤城は、昭和五一年一二月一日本件不動産を息子の原告に贈与し、原告が所有権を取得したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二そこで抗弁につき判断する。
1(一) 被告豊田らの抗弁各(一)(1)(原告は、意思無能力者であったから贈与契約は無効であるとの被告豊田らの抗弁)について
<証拠>によれば、贈与のなされた昭和五一年一二月一日当時、原告は一八歳の未成年者であり、藤城が親権者であったことが認められるから右贈与は有効であり、同被告らの主張は採用できない。
(二) 被告豊田らの抗弁各(一)(2)(被告豊田の心裡留保及び被告豊田らの虚偽表示の抗弁)について
前記一の事実に、<証拠>を併せ考えると、藤城が原告に本件不動産を贈与したのは、昭和五一年一二月一日当時商売に失敗していたため、身障者である原告の将来を心配した祖母のつるから強く言われたためであるが、藤城の真意であることが認められる。<証拠>によれば、当時被告豊田の主張する大林辰治らの仮登記などが経由されていたことが認められるが、右はその後藤城の弁済によって抹消されていることからみても、前認定を左右するに足りず、<証拠>も右認定を左右するに足りない。
したがって、被告豊田らの右各抗弁も採用できない。
2(一) 被告豊田の抗弁(二)(2)(本件第1根抵当権設定契約後、原告の事実上の後見人であったつるの同意ないしは追認を得たところ、その後つるが後見人に就職したことから有効になったとする被告豊田の抗弁)について
(1) <証拠>を併せ考えると、以下の事実が認められる。
(イ) 被告豊田は、昭和六〇年五月八日、原告と称する者及び藤城との間において、本件不動産につき、債務者を藤城とする被告豊田主張の第1根抵当権設定契約を締結し、その旨の登記を経た(登記を経たことについては当事者間に争いがない。)。
(ロ) 右契約は池田司法書士のもとで行なわれたが、登記申請の委任状(<証拠>)、根抵当権設定契約書(<証拠>)に原告と称する男が原告名を記入し、押印した。
ところが原告と称していた者は、実は原告の実弟亮二であって、藤城が原告の身代り役をさせたものであった。
(ハ) 被告豊田はその事実を、その後間もなく知り、右契約の数日後、第1根抵当権設定契約の追認を求める趣旨で、つるに前記契約締結の際作成されていた根抵当権設定契約書(<証拠>)に「親権者大林つる」と署名押印をしてもらった。
(2) ところで被告豊田は、つるは当時原告の事実上の後見人であり、その後、正式に後見人に選任されたことにより、第1根抵当権設定契約は有効になったと主張する。
つるが根抵当権設定契約書に「親権者大林つる」と署名押印をした後の昭和六一年九月五日、正式に後見人に選任されたことは前認定のとおりである。
そして、一般に後見人に就職する以前にそのものが後見人と称して法律行為をした場合に、同人が右就職前から被後見人のため事実上の後見人の立場でその財産管理に当たっていた場合には、右無権代理行為をした者が後見人に就職するとともに、もはや追認を拒絶し得ず、当該法律行為が本人のために効力を生じる場合が有ることは、当裁判所もこれを否定するものではないけれども、後見監督人が選任され(この点は<証拠>により認められる。)、同人が、つるのした第一追認(不動産の権利の得喪を目的とする行為に当たると解せられる。)を承認しない旨表明している(この点は<証拠>により認められる。)本件においては、(果してつるが事実上の後見人であったか否か、根抵当権設定契約書に「親権者大林つる」と署名押印をしたのが、本当の意味を理解したうえか疑わしい点はしばらくおくとしても)、つるが正式に後見人に就職したからといって、右法理を適用して、原告に対し、追認を拒絶し得ないものと解するのは相当でないと判断される。
してみれば、第1根抵当権設定契約及びこれに基づく登記は無効である。
(二) 被告金本の抗弁(二)(2)(b)(c)(本件第2根抵当権設定契約後、原告の事実上の後見人であったつるの同意ないしは追認を得たところ、その後、つるが後見人に就職したことから有効になったとする被告金本の抗弁)について
(1) <証拠>によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 被告金本は、昭和六〇年五月三〇日、被告小川を代理人として原告との間において、本件不動産につき、債務者を藤城とする被告金本主張の第2根抵当権設定契約を締結することとし、その旨の登記を経た(登記を経たことについては当事者間に争いがない。)。
(ロ) 右契約は山田司法書士事務所で行なわれたが、藤城が登記用委任状、根抵当権設定契約書に原告の氏名を記入し、押印する形でなされた(その結果作成されたのが<証拠>である。)。
被告金本は、その際つるが立会っていたと主張するが、これに沿う<証拠>は、<証拠>に照らして信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(ハ) 被告小川は、その後間もなく、山田司法書士の忠告に従って、つるから前記第2根抵当権設定契約を追認する旨の書面(丙第二号証)の交付を要請し、これを受け取った。
(2) ところで、被告金本は、つるは当時原告の事実上の後見人であり、その立場で第2根抵当権設定契約を追認する旨の意思表示をした後、正式に後見人に選任されたことにより、第2根抵当権設定契約は有効になったと主張する。
つるが丙第二号証を被告小川に交付した後正式に後見人に選任されたことは前認定のとおりである。
しかしながら被告金本の場合においても、後見監督人が選任され、同人が、つるのした第一追認を承認しない旨表明している(この点は、<証拠>により認められる。)本件においては、(果してつるが事実上の後見人であったか、丙第二号証を被告小川に交付し、第2根抵当権設定契約を追認する旨の意思表示をした意味を理解していたか、疑わしい点はしばらくおくとしても)前記被告豊田の項に説示したと同一の理由により、第2根抵当権設定契約及びこれに基づく登記は無効と判断される。
3 被告金本の抗弁(二)(2)(a)(藤城が本件不動産の処分権を有していたとの被告金本の抗弁)について
これに沿う<証拠>は、前記二の1(二)認定の事実に照らしたやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
4 被告豊田の抗弁(二)(3)(本件不動産が原告の名義になった経緯、つるが正式に後見人に就職したことなどから、信義則上第1根抵当権設定登記の抹消は許されない旨の被告豊田の抗弁)について
本件不動産が原告の名義になった経緯は前記認定のとおりであり、原告が藤城のために協力すべき義務もないから、同被告の右抗弁も採用できない。
5 被告金本の抗弁(二)(2)(d)(被告金本の表見代理の抗弁)について
原告からつるに対し、何らかの代理権を授与していた訳ではないから、基本代理権も存在せず、また、被告小川や被告金本において、原告が意思無能力者であることを知っており、つるが追認の権限を有するか否かを容易に調査、確認しえたのに、それをしなかった点過失があるものというべく、つるに代理権限があると信ずべき正当な理由があったとは認められず右抗弁も採用することができない。
第二被告小川関係
被告小川は認否をしないが、弁論の全趣旨から争ったものと認められるので判断するに、<証拠>によれば、請求原因事実1、2が認められ、これに反する<証拠>はたやすく信用できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
第三以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官佐藤壽一)
別紙物件目録<省略>
別紙登記目録<省略>